院長ブログ

四つ葉のクローバー
宇都宮市竹林、よつばハートクリニック院長のブログ

スタチン

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    3年前の春。当時52歳のSさんは遠距離を車で通勤しており、その日は職場の歓送迎会が終わった後市内で宿泊した。高血圧症と脂質異常症を42歳から指摘されており、高血圧症については近医で処方を受けていたが、脂質異常については軽微との判断でそのまま経過観察された。以下当時のチャートから。

    歓送迎会で飲酒後宿泊。21:50 頃胸痛を自覚し家族に今から救急車を呼ぶ旨を電話。
    22:01 消防覚知。22:05 フロントで昏倒。Bystander CPR(その場にいた人が直ちに行う心肺蘇生)なし。
    22:06 現着時深昏睡あえぎ呼吸(死戦期呼吸)。CPA(心肺停止)の判断でCPR(心肺蘇生)開始。初期波形Vf(心室細動)で以後搬送までにAED(自動体外式除細動器)作動6回。 
    22:23 病院到着時PEA(無脈性電気活動)であったが、ベッド上で再びVf。ACLS(二次救命処置)を開始しcardioversion (電気ショック)1回で22:27 ROSC(自己心拍再開)。急性心筋梗塞と診断され心臓カテーテル室搬入。左冠動脈前下行枝の完全閉塞に対し吸引で再灌流を得た後、ステント留置術を行った。手技中Vfありcardioversion。IABP(大動脈バルーンパンピング;簡単に入れられる心臓の補助装置)を装着しCCU(coronary care unit;心臓の集中治療室)に入室。アシドーシス(体液が循環不全などで酸性に傾くこと)が遷延しており、多量の強心剤でも血行動態が維持されず、再度カテーテル室に搬入してPCPS(比較的短時間で開始できる人工心肺)を開始した。当初大量の血流を要していたが、その後順調に経過。4日目にPCPS抜去。翌日IABP抜去、人工呼吸器から離脱。以後一時的に心不全兆候を認めたものの比較的順調にリハビリを行い、17日目に退院した。

    ‘ツッコミどころのない人は運ばれてこない’、これは救命センターで働いていた当時の私の持論であった。では何故このような一次会で帰るタバコも吸わない善良な人がこんな目に遭わなくてはならなかったのだろうか▼搬送された時のデータはLDLコレステロール 119mg/dL, HDLコレステロール 34mg/dL, 中性脂肪 221mg/dL, HbA1c 5.5%だった。空腹時でない点が微妙であるが低HDL(40〜)であるのは間違いない。‘善玉’が低いのである。そもそも基準値とは何であろうか。LDLコレステロール(いわゆる‘悪玉’)は70〜139とあるがそれでよいのだろうか▼基準値をどうやって決めているかというと95%の人が入るように機械的に決めているだけだ。200人連れてきて、上下5人ずつはみ出すようにである。食べ物が溢れている国では高めに決まるはずである。有病率の問題もある。例えば糖尿病のような日本人の1割以上が罹患している病気では95%に入っているからと言って安心はできまい。逆にどういう人が安全に長生きをするかというのを統計的に解析すると、層別化が必要なことが見えてくる。つまり,燭瀬灰譽好謄蹇璽襪高いだけの人 高血圧や糖尿病などの他の危険因子を持っている人 6洪款/心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントを既に起こしてしまっている人で分けて考えなければならないのだ。勿論を一番厳しくしなければならない。しかも年を追う毎にデータが蓄積されることによって更に厳しくなって行く。今年動脈硬化学会のガイドラインが改訂され、に関しては<100から<70になった。つまり70以下まで下げた方が心血管イベントの再発率が低いということだ。正直に言ってやっと私の実感に近い数字になったという感がある。では△呂匹Δ。大雑把に言えば100以下だろう。どうやって下げるかと言えば‘スタチン’である。正式にはHMG-CoA還元酵素阻害薬と呼ばれる一群の薬剤であるが、全て一般名に〜スタチンと付くので業界用語で‘スタチン’と呼ばれている。現在6種類のスタチンが上市されているが最後のロスバスタチンがこの冬で特許切れとなり、全てジェネリックが揃うことになった。医者の私がこういうことを言うのもなんだが、‘努力よりスタチン’である。ところがこのスタチン、中々素直に飲んでもらえない。上述の如く↓の人は‘基準値’に入っていても内服しなければならないのだが、それが理解してもらえない。薬はなるべく朝1回にに揃えるようにするのだが、それでもである。何年か前に高血圧の薬とスタチンの合剤が発売されて、脂質のコントロールが格段に良くなった人が大勢出た。血圧の薬は真面目に飲むけどスタチンは捨てちゃってたのである。合剤にすると飲まないと血圧が上がるから仕方なく飲むのだ。嗚呼▼冒頭のSさん、CCUでのご子息の怒号が今でも耳に残っている。「なんでだよーっ、おやじー、起きろよー!!」。薬で眠ってるのだけなので本当に起きたら困るからあまり大きな声出して揺すらないで欲しいとは心の声。断言するが(と言っても証明のしようもないが)、スタチンさえ出されていればこうなってなかったのである。後から聞いたことだが、まともに口もきかないほど親子関係は良くなかったが、この入院をきっかけに仲良くなったらしい。「雨降って地固まる」というと軽すぎるだろうか。

     

     


    AED

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      4年前の初夏のことだ。仮にIさんとする。Iさんは50歳(当時)の男性。東京都在住で平日の朝、商用で初めて宇都宮を訪れた。そして駅のバス乗り場で倒れた。詳細な時刻は不明。顔面に挫創あり。9時15分に駅職員がAED(自動体外式除細動器)で1回ショックをかけたが、CPR(心肺蘇生)は行わず。その後10回ショックメッセージがあったが、怖くなり全てキャンセル。同18分救急隊現着時、死戦期呼吸あり。CPR開始。初期波形心室細動でその場で2回ショックを行い、車内に収容した。車内で4回ショックを施行したが心室細動のままであった。9時41分救命センター着。やはり心室細動であり静脈路確保後エピネフリン投与。同43分に電気ショックをかけ、44分に自己心拍再開(ROSC; Return of spontaneous circulation 業界用語で‘ロスク’。サ変動詞化可。‘ロスクした’とか)した▼循環器内科はこのタイミングで呼ばれる。Bystander CPR(バイスタンダー;その場にいた人 が直ちに行う心肺蘇生)はこれじゃあったとは言えないし、30分以上止まってたのか厳しいなぁと思いつつも周囲の血気盛んな若いお医者さんたちに急かされるようにして一通りのことをやる。心電図では判らなかったが冠動脈造影をしたらやはり左前下行枝の根元で詰まっていた。ステントを植え込んだはいいがその後どんどん血行動態が悪化し、PCPS(経皮的心肺補助装置;短時間で比較的簡便に入れられる人工心肺)を装着した。通常これは負け戦である。東京から駆け付けた奥さんの凍り付いたような顔が忘れられない。茫然とはこのような状態を言うのだろう。人間はあまりに衝撃的なことが起きると反応を失うものか▼考えて欲しい。AED(Automated External Defibrillator)とは何であろうか。心室細動の時にショックを加えてROSCを得ようという機器である。心室細動かどうかは「自動」的に機械が判断する。何故最後の発射ボタンが人間に委ねられているかというと、救命対象に誰も触れていないかまでは機械で判断できないからである。触れていればその人も通電されてしまう。対象の意識状態や呼吸が普通ではない(死戦期呼吸;前項参照)と感じたらとりあえず装着してみること、そしてショックメッセージが出たらそれに従うこと、従い続けることである。更にはAEDを使用してもROSCが得られなければCPRは続けなければならない。AEDの利用により救命対象に逆に障害を与えた場合でも悪意がなければ使用者は患者本人や遺族から責任を問われないことになっているし、基本的にそんなケースはありえない。日本の救急車は要請から現着まで平均で7分。それでは間に合わないので各所にAEDが配備されていることを理解しなければならない▼Iさんは今、東京から私のクリニックに通院している。第10病日頃から徐々に意識を回復し、第29病日に独歩退院した(と書くと簡単だが、気管切開したりなかなか壮絶だった)。どうせ難しいだろうけど次に助ける人のための練習だと思って治療していたのが正直なところ。もちろん手は抜いてないが、どうして助かったのだろう。東京の病院に紹介するものだと思っていたが、ご希望もあって続けて拝見することにした。遠隔期にステント留置部に再狭窄を来したが、バルーン治療を追加してその後は無事である。さすがに開業するとき再度東京の医療機関をお勧めしたのだが・・・。妙に明るい人なので後遺障害かな?と思って何度か奥さんに確認したが(何度も訊いてすみません)、元からだそうである。


      心「肺」停止

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        以前から不思議に思っている言葉に「心肺停止」というのがある。心臓が止まれば最終的には肺も止まる。脳も止まる。肝臓も腎臓も。何故「心停止」と言わないのだろう。肺だけクローズアップされる理由は何か。英語にするとcardiopulmonary arrest (CPA)になる。救命センターで仕事をしていると、「シー・ピー・エーの患者さん入りまーす」と一報が入る。おいおい、この忙しいのにマジかよ・・・・と心の声。ところが英語圏での使用はcardiac arrest(心停止)の方が多いようである。Cardiopulmonary resuscitation(CPR; 心肺蘇生)という言葉はある。心臓マッサージとともに人工呼吸をする必要があるからであるが、そこから派生したのだろうか▼少し前のニュースであるが、皆さんご覧になったであろうか。

        新潟県加茂市の高校で7月、野球部の練習直後に倒れ重体になっていた2年生の女子マネジャー(16)が、5日に入院先の病院で亡くなった。死因は低酸素脳症だった。7月21日午後5時半すぎ、3・5キロ離れた野球場での練習に参加。午後7時半ごろに練習を終え、部員と一緒に走って学校に戻った直後、玄関前で倒れたという。駆けつけた監督は「呼吸は弱いけれどある」と判断し、救急車が来るまでの間AED(自動体外式除細動器)は使用しなかったという。(2017年8月6日朝日新聞より抜粋)

        記事の内容から判断するに、消防署で一般市民に対して行う講習を受ければできる程度の心肺蘇生とAEDの使用があれば助かった蓋然性が高い。この件に関する様々な報道で‘死戦期呼吸’という言葉が出てくる。結論から言うと心臓が止まっていても呼吸が完全には止まっていない状態があり、その呼吸の仕方には一定の特徴があって、これが見られたら心肺蘇生を開始しなくてはならないということだ▼死戦期呼吸とはどんなものだろうか。_竺楔撞 下顎を動かして空気を飲み込むような呼吸 顎だけ動いて胸郭は動かない鼻翼呼吸 鼻翼が広がったり縮んだりでやはり胸郭は動かないあえぎ呼吸 深い吸息と速い呼息が数回続いた後に無呼吸となる。一方心停止はどういうふうに定義されるか。/汗纏 (asystole) 心電図もまっ平らな状態¬橘性電気活動 (pulseless electrical activity) 心電図上収縮波形はみられるが脈が触れないL橘性心室頻拍 (pulseless ventricular tachycardia) 心室頻拍で脈が触れないものた桓失抛 (ventricular fibrillation) 心筋が不規則に痙攣し、機能的な収縮運動がみられない。新潟県のケースは報道から心室細動だったと考えられる。心静止でも1分ぐらいは死戦期呼吸が見られることはあるが、長く続かない。一方心室細動ではかなり長く観察されることもある。実は血圧にすると30mmHgぐらいに相当する血流が出ており、脳幹機能がある程度保たれるからである。だから心静止より心室細動のほうが同じ心停止に分類されていても断然蘇生率も社会復帰率も高い▼心臓が止まれば呼吸も直ぐ止まる・呼吸があれば心臓も動いているという思い込みがあったのであろうか。「心肺停止」という言葉が足を引っ張っているような気がした。


        お蔭様で一年

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          昨年9月の保険診療開始から1年が経ちました。どうにかこうにかやってこられたのも、まずは信頼して掛かってくださっている患者さんたちの、また連携していただいている医療機関の、手伝ってくれているスタッフのお蔭であるとただただ感謝するばかりです。この間、多くの新しい出会いとそして少しの別れがありました。果たして人の役に立てているのか、振り返り振り返り反省する日々です。一年前までは大きな病院で仕事をしていましたから、自科にしろ他科にしろなんとなく新しい診断や治療法が自然に知識として入ってきていましたが、ここではそうはいきません。そこでこれからのポリシーとして、

           

          ‐錣某靴靴ぐ絣愧亮院治療手段をキャッチアップし、自分の中で評価して、患者さんに勧めるべきは勧められるようにしておく。

          ⊆院で完結できる患者さんはなるべくそうできるように、common disease(ありふれた一般的な疾患)を中心に守備範囲を拡げていく(拡げ過ぎに注意!)。

          4擬圓気鵑砲箸辰謄戰好箸力携が取れるように常にアンテナを張り、連絡を密にしておく。

          ぢ臉擇覆里楼譴砲眛鵑砲皀灰潺絅縫院璽轡腑鵑反監澄△修離好ルに磨きをかけていく。

          ゾ个だ爾寮笋┐覆ぅリニックにしたい。 

           

          こんなことを考えています。‘いかにして最も幸せな姿をデザインしていくか、そんな思いを名前とロゴに込めたつもり’ と以前に書きましたが、果たしてどのくらい実現出来ているのか、自問する毎日です。
           


          口に入れないほうがいいもの

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            ちょっと記憶にないぐらい忙しい月末だった。21日金曜日は講演会の演者、日曜日は夜間休日診療所の当番、木曜日はまた講演会の演者、金曜日は講演会の座長、土曜日は講演会のパネリストみたいなものをやった。来る話を断らないからこういうことになるのは判ってはいるのだが、断るともう来なくなるんじゃないかという恐怖感でこうなってしまった。中で座長というのは初めてやった。まず最初に演者の先生を紹介して、話が終わったら皆さんに質問はありませんかと訊ねて、あってもなくても自分からも一つは何かは訊かなくちゃという役割である。演者よりはかなり気楽で、有名で話の面白い演者だと質問もいっぱい出るからさらに楽である。今回は久留米大学医学部の山岸昌一教授による‘食事から考えるウエル・エイジング’というものだった。食事に気を付けていい歳の取り方をしましょうということか▼教授は終末糖化産物(AGE)の世界的権威で、一般向けの書籍も出されていて『老けたくなければファーストフードを食べるな』や『老けない人は焼き餃子より水餃子を選ぶ』という宇都宮市民としてもちょっと聞き捨てのならないようなものもある。我々が日頃患者さんを診ていて思うことの一つは、実年齢よりも見た目が老けている人は予後が悪いということあるいは糖尿病などで一度血管や臓器が傷ついてしまうとそこから血糖をコントロールしてもなかなかいい結果が得られないということである。そしてAGEの体内への蓄積というのがその答えだ。AGEは糖とたんぱく質が反応したもので、高温であるほど量が増えるので水餃子より焼き餃子が悪いということだ▼詳細はとてもここでは書ききれないが、最も悪いものはポテトチップスで、その他揚げ物やハンバーグみたいなもの、インスタントの麺、熱はそんなでもないが時間が経ったり紫外線が当たったりしているハム・ソーセージ・ベーコン・干物・チーズなども悪い。調理法でみれば唐揚げ>蒸し鶏、焼肉>しゃぶしゃぶということになる。また体内に入ってAGEを作りやすい糖質の代表は果糖である。だから果物の食べ過ぎも悪いし、何よりサイダー・コーラ・スポーツドリンクにも果糖が入っている。100%果汁のジュースも然りである。同様に乳糖(牛乳)も悪い。某M社のヴァリューセットなんか子供に食べさせていいんだかどうなんだか考えて頂きたい▼うな重は? そう、なんだって完璧に抑えろというものではない。たまには食べたいものを食べるということも大事である。ただ全体としての方向性は保った方がいい。日々下らないものを口にしていないか検証が必要である。


            平和について

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              南スーダンにPKOで派遣された陸上自衛隊の日報の存否を巡っての防衛大臣の発言に、自衛隊内部からも異を唱える者が出てきた。大方の予想通り隠蔽を了承していたというものである。どうしてここまで出鱈目な発言を繰り返す人が更迭されないのか不思議だ。他の失言大臣はもう少し速やかに退いているのにこの人だけ異様に守られている感じがする。そもそもは紛争地域に軍隊を派遣したら戦闘が起きたということである。林間学校にカッパを準備して持っていったら雨が降って使う羽目になったとういのと同じ確率事象だ。ここで自衛隊の存在そのものを議論するつもりは毛頭ないが、どう考えたって現行の憲法では赦されないことをやっている。それを紛争地帯かどうか、衝突か戦闘かなどと言葉遊びのような話が続く▼18日、聖路加国際病院の日野原重明先生が亡くなった。105歳だった。医師や教員、議員などが同業者を先生と呼ぶのは一般の人の感覚からすると嫌な感じがすることもあろうが、やはりそう呼ばせていただく(何かを直接教わったことがある訳ではない)。私が先生を付けて呼びたくなるのは、他に指揮者の故・朝比奈隆先生、将棋の加藤一二三先生ぐらいか。何れも高齢になるまで同じことをエネルギッシュにやり続けたという点で共通している。その日野原先生、凄いのは東京大空襲とよど号ハイジャック事件(乗客として)、地下鉄サリン事件の3つを経験しているということ。そして著書や寄稿、講演などで繰り返し訴えたのは平和の大切さと今の憲法を護ることの必要性についてである▼この仕事をしていると人の命の重さを日々痛感する。時々押しつぶされそうにもなる。幸せな一家が一人のひとつの病気でどん底に陥るのを数々見てきた。今の日本の見かけ上の平和もほんの少しの綻びから破れるかもしれない。戦争で、戦場で起きることは人命の軽視でああり報復の連鎖だ。この国の今の政権は戦争をやりたがっているとしか思えない。異を唱える者は監視し排除されるシステム・法律が既に出来上がっている▼医療の世界は試行錯誤の積み重ねだ。こうすると人が助かるということが明らかになる背景には多くの犠牲が隠れているのである。大事なことは失敗を先生として学ぶということ。歴史という先生からも学ばなくてはならない。そして似たようなことが起きないようにしなければならない。世の中のひとつひとつが前回の戦争の少し前の日本と似ているような気がする。また歴史の生き証人が一人この世を去った。


              アートの世界

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                七夕の朝、長く拝見した慢性心不全の女性が亡くなった。85歳だった。最初からすると10年ぐらいになるだろうか。沢山診ている患者さんの中で大事とか大事でないとかがある訳ではなく、皆大事なのであるが、特に思い出に残る患者さんの一人であった。とにかくよく喋るし、食べるのも大好きな人だった。`私はね、この先生じゃなかったらもうとっくにこの世にいないの’ などと周囲の患者さんに吹聴するものだからちょっと気恥ずかしかった▼病を得るという。別に欲しくて貰うわけではないから変な表現であるが、人間はこの病を得てからが真価を問われるのではないかと思ったりもする。果たしてこの方は考え方がポジティブであった。いろんな失敗をしてその度に入院したり指導されたりするのであるが、どこまでも明るく前向きに対処する。そして周囲に対する感謝の気持ちを忘れない。病気からして食餌や塩分・水分などにも可哀そうなくらい制限がつくのであるが、ちょっとだけ許可された寿司などを本当に美味しそうに食べたという▼`先生の患者さんてみんな長生きですよね’ と元いた病院のスタッフに言われることが時々ある。特段これといった決め手みたいなものがある訳ではない。この薬よりよく似てるけどこっちの薬のほうがほんのちょっといいとか、1日の飲み水をあと200cc増やした方がいいとか、ほんの少し運動が足りてないとかそういう細かい調節の集大成だと思う。そしてこの作業は患者さんの生い立ちや性格、受けた教育、職業などに影響を受けるのでコミュニケーションはとても大事である。カッコつけすぎかもしれないが一種のアートだと思ってやっている。しかし最後にはどうにも筆の入れ場所がなくなってしまうものである▼この方のご主人もかつて冠動脈にステントを私が入れた患者さんだった。今はそっちの方が多少進んでしまって別の病院にお住まいになっている。ご子息によると病院から出てきて葬儀には参列されたんだそうである。応対もそれなりにちゃんとした。ところが後日病院に行ってみると ‘ばあさんはどうしてるかなぁ〜’ と言ってたと。面倒くさいからまだ生きていることにしたんだそうな。描いたとおりに描けてないのもアートであるが、趣のある絵になっている。


                ポリファーマシー

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                  開業して10ヶ月、様々な方をご紹介頂く。第1の医院で13種類!、第2のクリニックで6種類の計19種類の処方(内服薬だけでである)を受けている患者さんがいた。これをみて驚いた第3のクリニックの先生から整理するように仰せつかった。第1の医院では血圧の薬が3種類出ていたのだが、うち2つはカリウム値を上昇させる作用があり、第2のクリニックではカリウムを下げるための薬が処方されていた。この薬の副作用は便秘とお腹の張りであるが、第1の医院では便秘薬と消化薬、お腹を動かして張りをとる薬が処方されていた。一方第2のクリニックでは不整脈と動悸が副作用としてある脳梗塞の薬が出ていたが、第1の医院では不整脈の薬と動悸を鎮める薬が処方されていた。お安い御用である▼藪医者の語源には諸説があるが、見通しが悪い・見通せないというのも有力である。患者さんに何か言われればそれについての見通しを示さなければならないのが我々の職業であるが、何か言われる度に薬を処方して対処しているうちにこんなことになってしまったのだろう。気持ちは判らないでもない。世の中医者と製薬会社ほど恐ろしいものはない。みなさん医者に何かを訴えるときは慎重に▼多く薬を処方する・処方を受けることをポリファーマシー(polypharmacy)という。患者さんの家に死蔵されたり廃棄されたりする薬が年間500億円分にも及ぶという試算もあり、6種類を超える薬剤の処方箋料は安くなるなどの対策も取られているが、根本的な解決にはなっていない。むしろ多くの分野に跨って縦断的に総合的に診療しようとする医者はこれでは損である。そもそもなぜ薬を飲むかというと\弧人集紊延長するから(長生きにつながるから)、∪験茲亮舛向上するから(つらいのが良くなる)のどちらかでなければならない。ただ血圧が高いから血圧の薬を出す、胃が悪いから胃の薬を出すというのが多すぎるし、有害事象に目を向けずに鎮痛剤や睡眠薬を長期に亘って処方するのもどうかと思う▼向精神薬なども含めて様々なポリファーマシー状態の患者さんに出会うが、ひとつひとつ丁寧に薬を剥がして行くとあらスッキリということも多い。冒頭の患者さんも6種類ぐらいの薬にして差し上げたら喜んでいた。ありきたりだが‘Simple is best.’である。


                  ウナギおいし♪

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                    好きな食べ物を1つだけ上げろと言われればそれは鰻である。即答である。妻の好物でもあるが、美味しい肉よりも不味い鰻を選ぶと言ったら変な顔をされた。その鰻も最近滅多に食べられない。塩分(肝吸い付で10gぐらいはあろうか)やカロリー(味醂・酒・砂糖がかなり手伝っている)も気になるが、絶滅の危機にあるという点も大きい。自分一人が食べるのを我慢したからと言って絶滅の回避にはならないのは理屈であるが、我ながらやはりウナギを愛するが故であろうか▼2009年当時東京大学教授だった塚本勝巳らによってウナギの産卵場所がほぼ特定された。マリアナ諸島西海域の水深150-200mのごく狭い範囲らしい。従来川で10年ぐらい生活して降海して産卵するものと考えられてきたが、実際には海で一生暮らすものが4割、汽水域で生活するものが4割、淡水で暮らすものは2割ぐらいということが判ってきた。不思議な生き物である。環境破壊や大きすぎる漁獲圧の影響を受けやすい。流通量の99%は養殖であるが、元となるシラスウナギは今のところ100%天然である。ウナギの完全養殖は技術的には達成されているが、そのままだとほとんどオスになってしまうとか、エサの問題などもありコストがまだ合わないらしい。もう少しの辛抱か▼鰻と言えば将棋の加藤一二三 九段を思い出す。‘ひふみん’の愛称でバラエティー番組などにも出ており、様々なエピソードに事欠かない人である。昨日ついに連勝が29で途絶えた藤井聡太四段の最初の対戦相手でもある。14歳7ヶ月で棋士になり(今回藤井四段が14歳2ヶ月で更新するまでの最年少記録である)、この度77歳で引退するまでの62年10ヶ月間プロ棋士であり続けた。1180敗というのも歴代最多らしいが、それだけ長く活躍したということだろう。その加藤九段、対局日昼に注文するのが鰻重で夜がまた鰻重と云う。インタビューに答えて曰く昼は鰻が2枚入ったものを注文し、夜は対局が深夜に及ぶことに備えて3枚だそうである(料金は自腹である。念のため)▼私の医師としてのキャリアはこの半分にも満たない。塚本教授にしろ加藤先生にしろ‘執念’という言葉を通り越して神々しさすら感じる。辛いだの疲れただの言っていられない。少し力が湧いて来た。


                    春望

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                      やらなければならないことは沢山あるのだが、疲れてしまって日曜日の朝から寝転がって久しぶりにテレビを見ていた。一週間のまとめ的な番組をやっていて耳をつんざく様な女性のカナ切り声が聴こえ、ウトウトしていたが目が覚めた。‘このハゲーーー!’ である。‘ち・が・う・だろ、ちがうだろー!’ と続く。リズミカルだなと妙に感心してしまう。言うまでもなく女性の衆議院議員(マズい マークが似ている・・・)が男性の秘書に暴行を働いて問題になっている件である。「あれはたまたま彼女が女性だから、あんな男の代議士なんかいっぱいいる。あんなもんじゃすまない」などと余計なことを言って直ぐに撤回する羽目になる人もいる。頭の悪い人はどこまでも頭が悪い▼不思議なのは今まで数十人(100人超?)の秘書が辞めているというモンスターのような人が当選を繰り返していることである。周辺にはおかしいと思っていた人が多数いた筈である。何故情報が伝わらないのであろうか▼医療ミスや不適切な医療行為を繰り返していたとして、2016年度までの4年間で、27人の医師に再発防止が指導・勧告されていたことが日本医師会(日医)のまとめでわかった。医師が所属する都道府県医師会が勧告などを出している。こうした医師は「リピーター医師」と呼ばれる(朝日新聞報道)。医師の名前は明らかになっていない。手術死亡率が突出して高い大学病院医師などが報道などで問題になることがあるが、これとて周辺におかしいと思っていた人は大勢いたと思われる。自浄能力がないという点でこれらの問題は共通している▼頭の薄い連想から杜甫の「春望」を思い出した。果てしなく暗い詩である。未来は混沌としている。これでいいはずがない。


                         国破山河在     国破れて山河在り
                         城春草木深     城春にして草木深し
                         感時花濺涙     時に感じては花にも涙を濺ぎ
                         恨別鳥驚心     別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
                         烽火連三月     烽火三月に連なり
                         家書抵萬金     家書萬金に抵る
                         白頭掻更短     白頭掻かけば更に短く
                         渾欲不勝簪     渾べて簪に勝えざらんと欲す

                       



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