院長ブログ

四つ葉のクローバー
宇都宮市竹林、よつばハートクリニック院長のブログ

壮大な物語

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    患者をどうやって搬送するかを検討するための会議が開かれた。病院からは医師・看護師・事務系の職員、それに市からは消防担当者、県の防災担当者。かなり大勢。患者の生命を維持するための機器が多すぎ、また大きすぎ、通常の救急車で運ぶのは難しかった。旧い大きな救急車もあるらしかったが、電源の問題でダメだった。県の防災ヘリは小さすぎて救急車より更に厳しかった。自分で調べて東京消防庁のヘリだと載りそうなことが判ったので、提案してみた。 ‘前例はあるの?’ と県の誰かが訊いた。 ‘ありません。’  別の誰かが答えた。‘あっ、ない?じゃあダメだ。’ くそっ、前例なんか最初に誰かが作らなきゃある訳ないじゃないかと思ったが黙っていた。陸上自衛隊のヘリコプターであれば、県知事が災害派遣要請をするという形で呼べるとのことだった▼自衛隊のヘリコプターでこういうのを運ぶのに適しているのは、素人の私でも想像がつく。水平のローターが前後で2つ回っている(タンデムローターというらしい)あれだ。ところが今度は大きすぎて病院のヘリポートに降りられないとのことだった。学校の校庭とかでは遠すぎるし・・・。結局職員駐車場に着陸させるという私の提案が採用されることになった▼今度は自衛官と折衝。とんでもないことだった。凄い風圧だからちょっとやそっとのスペースではだめらしい。その駐車場を使用している全員に公共交通機関での出勤を命じて、大勢で小さな石を拾って。それでも実際道を挟んだ隣の駐車場の車が石で何台か傷ついたし、リアスポイラーが飛んだ車もあったそうだ。他にも知らなくて驚いたのは雨だと飛べないとか、上空で患者が亡くなれば国土交通省の航空事故調査委員会の管轄になるとか▼集中治療室から出てヘリに積み込むのも大変だったし、エンジンが始動してから飛ぶまでも相当長く感じた。東京の着陸地は世田谷区三宿の自衛隊中央病院。まだ建って日の浅かったこの病院の屋上のヘリポートは大きくて、このサイズのヘリコプターも着陸できるのだった。そこから東大病院までは東京消防庁の大型救急車。着いたら医師とその他のスタッフが大勢で迎えてくれて引き継ぎ。こっちは基本的に自分と部下の2人の医者で診ていたものだから、彼我の体制の差異を痛感した。事前のやり取りも充分だったので、申し送ることもあまり無くて、呆気なく病院を出た。患者も家族もこれから大変だろうが、こちらとしては後はお願いして祈るしかない。自分の体に何か大きな穴がぽっかり開いたような感じがした▼手伝ってくれた皆と軽く食事をして、上野駅まで歩いた。不忍池の畔で桜が満開だった。このひと月半というものスピーチを頼まれていた知人の結婚式に唯一度出席した以外は、殆ど病院で過ごしていた。引き続き生死の境を彷徨うであろう患者を思うと、桜の樹の周りで楽しそうにしている人々とのコントラストが眩しかった。(続く)

     


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