院長ブログ

四つ葉のクローバー
宇都宮市竹林、よつばハートクリニック院長のブログ

スタチン

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    3年前の春。当時52歳のSさんは遠距離を車で通勤しており、その日は職場の歓送迎会が終わった後市内で宿泊した。高血圧症と脂質異常症を42歳から指摘されており、高血圧症については近医で処方を受けていたが、脂質異常については軽微との判断でそのまま経過観察された。以下当時のチャートから。

    歓送迎会で飲酒後宿泊。21:50 頃胸痛を自覚し家族に今から救急車を呼ぶ旨を電話。
    22:01 消防覚知。22:05 フロントで昏倒。Bystander CPR(その場にいた人が直ちに行う心肺蘇生)なし。
    22:06 現着時深昏睡あえぎ呼吸(死戦期呼吸)。CPA(心肺停止)の判断でCPR(心肺蘇生)開始。初期波形Vf(心室細動)で以後搬送までにAED(自動体外式除細動器)作動6回。 
    22:23 病院到着時PEA(無脈性電気活動)であったが、ベッド上で再びVf。ACLS(二次救命処置)を開始しcardioversion (電気ショック)1回で22:27 ROSC(自己心拍再開)。急性心筋梗塞と診断され心臓カテーテル室搬入。左冠動脈前下行枝の完全閉塞に対し吸引で再灌流を得た後、ステント留置術を行った。手技中Vfありcardioversion。IABP(大動脈バルーンパンピング;簡単に入れられる心臓の補助装置)を装着しCCU(coronary care unit;心臓の集中治療室)に入室。アシドーシス(体液が循環不全などで酸性に傾くこと)が遷延しており、多量の強心剤でも血行動態が維持されず、再度カテーテル室に搬入してPCPS(比較的短時間で開始できる人工心肺)を開始した。当初大量の血流を要していたが、その後順調に経過。4日目にPCPS抜去。翌日IABP抜去、人工呼吸器から離脱。以後一時的に心不全兆候を認めたものの比較的順調にリハビリを行い、17日目に退院した。

    ‘ツッコミどころのない人は運ばれてこない’、これは救命センターで働いていた当時の私の持論であった。では何故このような一次会で帰るタバコも吸わない善良な人がこんな目に遭わなくてはならなかったのだろうか▼搬送された時のデータはLDLコレステロール 119mg/dL, HDLコレステロール 34mg/dL, 中性脂肪 221mg/dL, HbA1c 5.5%だった。空腹時でない点が微妙であるが低HDL(40〜)であるのは間違いない。‘善玉’が低いのである。そもそも基準値とは何であろうか。LDLコレステロール(いわゆる‘悪玉’)は70〜139とあるがそれでよいのだろうか▼基準値をどうやって決めているかというと95%の人が入るように機械的に決めているだけだ。200人連れてきて、上下5人ずつはみ出すようにである。食べ物が溢れている国では高めに決まるはずである。有病率の問題もある。例えば糖尿病のような日本人の1割以上が罹患している病気では95%に入っているからと言って安心はできまい。逆にどういう人が安全に長生きをするかというのを統計的に解析すると、層別化が必要なことが見えてくる。つまり,燭瀬灰譽好謄蹇璽襪高いだけの人 高血圧や糖尿病などの他の危険因子を持っている人 6洪款/心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントを既に起こしてしまっている人で分けて考えなければならないのだ。勿論を一番厳しくしなければならない。しかも年を追う毎にデータが蓄積されることによって更に厳しくなって行く。今年動脈硬化学会のガイドラインが改訂され、に関しては<100から<70になった。つまり70以下まで下げた方が心血管イベントの再発率が低いということだ。正直に言ってやっと私の実感に近い数字になったという感がある。では△呂匹Δ。大雑把に言えば100以下だろう。どうやって下げるかと言えば‘スタチン’である。正式にはHMG-CoA還元酵素阻害薬と呼ばれる一群の薬剤であるが、全て一般名に〜スタチンと付くので業界用語で‘スタチン’と呼ばれている。現在6種類のスタチンが上市されているが最後のロスバスタチンがこの冬で特許切れとなり、全てジェネリックが揃うことになった。医者の私がこういうことを言うのもなんだが、‘努力よりスタチン’である。ところがこのスタチン、中々素直に飲んでもらえない。上述の如く↓の人は‘基準値’に入っていても内服しなければならないのだが、それが理解してもらえない。薬はなるべく朝1回にに揃えるようにするのだが、それでもである。何年か前に高血圧の薬とスタチンの合剤が発売されて、脂質のコントロールが格段に良くなった人が大勢出た。血圧の薬は真面目に飲むけどスタチンは捨てちゃってたのである。合剤にすると飲まないと血圧が上がるから仕方なく飲むのだ。嗚呼▼冒頭のSさん、CCUでのご子息の怒号が今でも耳に残っている。「なんでだよーっ、おやじー、起きろよー!!」。薬で眠ってるのだけなので本当に起きたら困るからあまり大きな声出して揺すらないで欲しいとは心の声。断言するが(と言っても証明のしようもないが)、スタチンさえ出されていればこうなってなかったのである。後から聞いたことだが、まともに口もきかないほど親子関係は良くなかったが、この入院をきっかけに仲良くなったらしい。「雨降って地固まる」というと軽すぎるだろうか。

     

     


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